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nottuo自邸スタジオ – 山の平家リノベーション

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nottuo本社事務所隣の築40年の木造平家の自邸を自社設計デザインでフルリノベーションしました。

代表の鈴木が西粟倉に移住してから11年間住み続けたこの住宅は、前オーナーさんがリタイヤ後に新築され、奥様がお茶の先生をされていたこともあり手刻みの木組と竹小舞の土壁や茶室など、最近の家では中々見ることが少なくなった素材や工法とこだわりが詰まった建物でした。

昔のしっかりした造りとはいえ、築後30年が経ちその後も10年も住んでいれば当然壁に隙間や床が傷んだりと、経年による劣化したところも多く、特に冬場の寒さが厳しい西粟倉で住環境を豊かにすることはQOL向上に直結することもあり、nottuoとしても木造民家リノベの実験の舞台としてフルリノベーションを行いました。

古いものには魅力がある

時間が経って、自然と風合いが変わっていく経年変化は、人の手では生み出せない時間が醸し出す美しさがあります。今回の古い木造住宅のリノベーションにおいては、既存の木や土や石といった自然素材が時間を経て纏う魅力を最大限活かしながら、居住空間の快適性の両面を得るために、大胆に二つの空間の性質に分けて構成することにしています。

一方の空間は古いものを残し隠れていたものを表に見せる代わりに断熱性を諦めた空間。
もう一方は高気密高断熱といわゆる住宅性能を高めキッチンを中心とした全く新しいスタジオとしての空間。

明確に空間の質を二つに分けたことで、同じ屋根の下にありながら扉一枚を隔てて新旧と世界ががらっと変わることは、むしろ古民家のリノベーションだからこそ可能な空間構成でもありリノベの醍醐味でもあります。

また、この西粟倉で断熱性を捨てることは中々チャレンジングな試みですが、コストと意匠と暮らし方のバランス鑑みると三方良しの考え方と今でも納得しています。
とはいえ当然断熱していない区画は夏は暑く冬は寒いので、家の中でありながら半分は外みたいなものと割り切って暮らすことが重要で、安藤忠雄さんの代名詞的設計住宅「住吉の長屋」もきっと他人から見た不便さと住人の満足度は異なるものなのだろうと、今回のリノベで学び得たところです。

デザインで、地方から変える

もう一つ、自邸リノベを実施した理由があります。それは現在nottuoが定め直し中のパーパスそしてビジョンでもある「デザインで、地方から変える」の実践という意味があります。

歴史も、文化も、素材も豊かな魅力ある地方で、唯一の課題といえるのは選択肢が少ないこと。だからこそ僕らnottuoの役割はデザインの力で地方にもっと選択肢を生み出すことだと最近は考えていて、ブランディングデザインを主に行う僕らがクライアントワークのみならずdrillプロジェクトをやったり、お菓子やさんを運営したりするのも、このローカルに選択肢を増やすお手伝いのみならず能動的に点を増やす取り組みを行なっています。

その上で今回「暮らし」の部分にもフォーカスして自邸のフルリノベーションに取り組んだことで、全国で約240万戸*とも言われる木造戸建ての活用可能性の実証実験の意味合いもありました。
*2018年住宅・土地統計調査(総務省)

新築住宅を否定する気はありませんが、こんなに余ってる日本中の空き家を、デザインの力でで住みやすく、住みたいと思える空間に生まれ変わらせることができる、その証明をしたかったんです。

今回のリノベで新設したウッドデッキからは集落の棚田を見渡すことができ、春の田植えや秋の稲刈りといった季節の移り変わりを感じることができ、夜には虫の声を聴きながら空中に広がる満点の星空を存分に満喫することができます。
都会には都会の豊かさがありますが、地方にはこうした都会にはない豊かさがあります。地方を拠点にする僕たちはその魅力を知っているし、その価値を最大限に愉しむ場をつくることで、地方が持っている可能性を明示したいと思いました。

先日、出来上がった自邸スタジオにクライアントの経営者さんが立ち寄ってくれたときに、
「このデッキはサイコーじゃないですか!」
と褒めてもらえました。その言葉がとても嬉しくて、このPJに取り組んだ最大のご褒美をいただきました。

この景色とここで流れる時間を感じてもらうために作った場で、ちゃんとその魅力を感じてもらえたことで、しっかりと役割を果たせています。

来月ここで焚き火をする約束をしたので、今からその日が楽しみですよ。


CD:
LS:
設計:
竣工写真:

WEBSITE:
鈴木宏平/nottuo
ミー
藤岡大典/nottuo
nottuo photo

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